認知症とは
病気や障害によって脳の働きが低下し、日常生活に支障をきたすようになった状態のことです。
私たち人間の脳には「記憶する」「判断する」「想像する」「言葉を理解する」といった知的機能(認知機能)が備わっています。認知症というのは、こうした機能が病気や障害によって低下し、日常生活に支障をきたすようになった状態を指す言葉です。
日本では高齢化にともなって認知症を抱える人が増えており、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、65歳以上の約5人に1人が認知症になると予想されています。
加齢によるもの忘れとの違い
私たちの脳は、一般的に中年を過ぎた頃から老化がはじまります。高齢になると「昨日の献立が思い出せない」とか「冷蔵庫になにを取りに来たか忘れた」といったことが増えてくるのはそのためです。こうした「加齢によるもの忘れ」は年相応に起きる自然な現象で、認知症とは違います。認知症によるもの忘れと加齢によるもの忘れを区別するには、次のような点に注意するとよいでしょう。
○もの忘れの自覚があるか
「最近よくものを忘れる」という自覚がある場合は、加齢によるもの忘れの可能性が高いです。認知症になると、多くの場合もの忘れをしているかどうかがわからなくなります。
○忘れたのは体験の全部か一部か
「食事をしたこと自体を忘れる」というように、体験したこと全部を思い出せない場合は認知症が疑われます。反対に「食べたことは覚えているけど献立が思い出せない」というような、体験の一部のみを忘れるケースは、加齢によるもの忘れの可能性が高いです。
ただし、この2つを明確に区別することは難しいといえます。
○記憶を思い出すことができるか
加齢によるもの忘れの場合は、ヒントや答えをいってもらえれば「そうだった!」と思い出すことが多いです。これに対し、認知症の場合は、忘れた記憶を思い出すことはほとんどありません。
認知症に間違われやすい病気
加齢によるもの忘れのほかにも、認知症に間違われやすい病気があります。
○うつ病
高齢者のうつ病には、意欲の減退、注意力・判断力の低下、もの忘れなど、認知症のような症状があらわれることがあります。
○せん妄
せん妄とは、高齢者に多い意識障害の1つです。突然発症し、幻覚や恐怖、混乱、興奮をはじめとしたさまざまな症状を引き起こします。日付や時間がわからなくなったり、もの忘れが激しくなったりすることもあるため、認知症と間違われることがあります。
○てんかん
てんかんは3歳以下の子どもに多い病気ですが、実は65歳以上の高齢者が発症することも珍しくありません。高齢者のてんかんでは、けいれんなどの症状よりも記憶障害や言語障害といった症状がでる場合が多く、しばしば認知症と誤診されることがあります。
○薬剤性認知障害
高齢者の場合、うつ病の薬、風邪薬、アレルギー薬、睡眠改善薬などの薬によって、注意力や記憶力の低下などの症状が引き起こされることがあります。
若い人に発症する認知症
一般的に「認知症は高齢者の病気」と思われがちですが、実は64歳以下の現役世代も認知症になることがあります。こうした64歳以下に発症する認知症を「若年性認知症」といいます。2020年に東京都健康長寿医療センターが発表したデータでは、日本には若年性認知症の人が約35,700人いると推計されています。
働き世代を直撃する若年性認知症は、家計の維持や家事、育児などにも大きな影響を与えます。そのため、高齢者の認知症以上に「早期発見、早期治療」と「周囲の人や社会福祉制度などによる支援」が大切になります。
監修 東京大学大学院医学系研究科
老年病学 准教授
小川 純人 先生