パーソン・センタード・ケアとは

“認知症”ばかりに目を向けず、一人の人として受け入れ、尊重することが大切です。

認知症の人は「何もわからない人」ではありません

かつて、認知症は「何もわからなくなる病気」と考えられていました。そのため、認知症の人に対するケアも、食事や入浴の介助、排泄ケアなどをいかにスムーズに行うかといった介護者側の意識が強くなり、「本人の気持ちに配慮する」といった発想が十分ではありませんでした。

しかし、近年、認知症を抱えるたくさんの人たちの声によって、このような考えは誤解であり、このような対応を取るべきではないことが明らかになってきました。認知症になってもわかることやできることはたくさんあります。
また、「認知症かもしれない」という不安を抱え、苦しんでいるのは認知症の人、ご本人ということを忘れないようにしましょう。

パーソン・センタード・ケアという考え方

認知症に対する考え方が変われば、認知症ケアのあるべき姿も変わります。現在では、「パーソン・センタード・ケア」という考え方に基づいた認知症ケアが世界的に推奨されています。
パーソン・センタード・ケアでは、個人の性格やこれまでの人生、趣味、習慣といった「その人らしさ」を構成することを尊重したうえで、認知症の人に接します。

パーソン・センタード・ケアでは、何よりも本人の気持ちが優先されます。そう聞くと「介護者の負担が増える」ように思われますが、決してそんなことはありません。むしろ、パーソン・センタード・ケアに基づくことで、認知症の人の行動や状態を改善したり、悪化を防いだりできる場合が多く、結果的に、介護者の負担も軽減されるのです。
認知症の人の行動や状態は、脳の病気や障害の種類・程度だけでなく、周囲の人とのかかわりでよくも悪くもなります。認知症の人が家族や介護者に対して「ちゃんと自分を理解してくれている」と感じることで落ち着いた状態になると考えられます。

認知症の人を理解するには?

認知症の人の気持ちや状態を理解するには、パーソン・センタード・ケアの生みの親であるイギリスの心理学者、トム・キットウッドの示した3つの考え方が参考になります。

▶︎認知症の人のよい状態とよくない状態

1つは、「認知症の人のよい状態とよくない状態のサイン」から、認知症の人の心が今どのような状態かを知り、誤ったかかわり方をしないための目安になります。

よい状態のサイン よくない状態のサイン
・表現できること
・ゆったりしていること
・周囲の人に対する思いやり
・ユーモアがあること
・喜びの表現をすること
・人に何かをしてあげようとすること
・自分から社会と接触すること
・愛情を示すこと
・自尊心(汚れ、乱れを気にする)
・あらゆる感情を表現すること
・がっかりしているときや悲しいときに放ったらかしにされている状態
・強度の怒り
・不安
・恐怖
・退屈
・身体的な不快感
・からだの緊張、こわばり
・動揺、興奮
・無関心、無感動
・引きこもり
・力のある他人に抵抗することが困難

よくない状態に向かわせるかかわり方としては、次のようなことが挙げられます。

・本人がやりたがらないことをさせるために、だましたり、あざむいたりすること
・できないと思い込んで、介護者が本人の能力を使わせないこと
・「そんなことをしたら○○になるよ!」などといい、怖がらせること
・よくわからないだろうと思い、話の輪に入れなかったり、無視したりすること
・本人が抱えている不安や憤りをわかろうとしないこと

▶︎行動や状態に影響を与える要素

2つ目は「認知症の人の行動や状態に影響を与える5つの要素」です。認知症の人の行動や状態は次の5つの要素が複雑にからみあってつくられるとされており、これらを考えることは、認知症の人を理解する手がかりになります。

① 脳の障害…認知症の原因となっている脳の病気や障害
  脳の障害が進行し、記憶力が低下したことに不安を感じていないか様子をみてください。

② 健康状態…持病や体調、視力・聴力など
  持病の悪化やほかの病気によって、不快な思いをしていないか様子をみてください。

③ 生活歴…生いたちや職歴、趣味、習慣、好みなど
  好きだったことに変化が生じていないか、昔得意だったことができなくなっていないか様子をみてください。

④ 性格…本人がもともともっている性格
  内気な性格なのに集団のなかに連れて行かれ、戸惑いや不安を抱えていないか様子をみてください。

⑤ 社会的環境…周囲の人の認識や対応、周辺環境など
  子どものように扱われて、傷ついていないか様子をみてください。

▶︎心理的ニーズ

3つ目は「認知症の人の心理的ニーズ」です。トム・キットウッドは、認知症の人が潜在的に抱えているニーズを次のような花として表現しています。

認知症の人に問題となる行動や状態がある場合には、この花の中のどこかのニーズが満たされていないことが考えられます。問題となる行動をただ抑えるのではなく、問題行動を起こす心理的要因に目を向け対応することが大切です。

監修 東京大学大学院医学系研究科
   老年病学 准教授
   小川 純人 先生

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