認知症への偏見と誤解

「認知症だから○○」と決めつけないことが大切です。

認知症への偏見とは

「偏見」とは、ある集団や個人に対する偏った見方や考え方のことですが、認知症そのものや認知症の人にも偏見の目が向けられることがあります。たとえば、「認知症になると何もわからなくなってしまう」とか「暴言などでまわりの人に迷惑をかける」といった偏見です。

症状のあらわれ方や進行具合は人それぞれで、周囲の人の接し方やケアによっても変わってきます。医療・介護などのサポートを受けながら、住み慣れた地域で、その人らしく穏やかに人生を全うすることもできます。何より「認知症だから」という決めつけをしないことが大切です。

「痴呆」から「認知症」へ。名称変更された理由とは?

2005年から「認知症」という名称が使われるようになりました。それまでは「痴呆」でしたが、この名称は差別的なニュアンスを含んでいると以前から指摘する人がいました。実際に差別的に使う人もいたため、厚生労働省では「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」を開催し、検討の結果、「認知症」が新しい名称に決まりました。「認知症」へ名称が変更された後、認知症の人を支える家族へアンケートを行ったところ、71.3%の人がこれまでの言葉よりも不快感が少ないと回答しています1)

認知症に対する偏見を生む一因に、認知症に対する間違った情報や認知症の症状の一部を誇張した表現があるといえます。それを信じてしまうと、認知症の人すべてがそうだという思い込みにつながります。
以下に挙げる認知症に対する代表的な誤解から、正しい情報とはどのようなものか、これまで認知症に対して抱いていたイメージとどれほどかけ離れていたかを考えてみましょう。

○認知症への誤解① 認知症=アルツハイマー型認知症 ✖

認知症といえばアルツハイマー型認知症と思っている人は少なくないでしょう。しかし、認知症にはいくつかの種類があり、「アルツハイマー型認知症」はそのなかの1つで、アルツハイマー病という病気による認知症をいいます。
認知症の種類はほかにも、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症などがあります。
これらのなかで最も多いのがアルツハイマー型認知症(67.6%)で、次に血管性認知症(19.5%)、3番目がレビー小体型認知症(4.3%)となります。
それぞれに特徴があり、治療法や対処法も異なります。そのため、認知症とひとくくりにせず、認知症の原因疾患を調べて、そこから治療をスタートするとよいでしょう。

厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 平成23〜24年度総合研究報告書:2013より作図

○認知症の誤解② 認知症は治らない ✖

認知症のような症状があっても治る可能性がある病気があります。たとえば、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、髄膜炎・脳炎、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症などです。これらは、早期発見して適切な治療を受けることによって治癒が見込めるので、認知症を疑う症状に気づいたらできるだけ早く受診して、その症状をもたらす病気を鑑別することが大切です。「認知症は治らない」という思い込みから治療の機会が奪われないようにしましょう。

認知症への偏見は間違った対応につながる

認知症の人を軽視する人のなかには、認知症への正しい知識が不足していることがあります。その結果、認知症の人に対して間違った対応をしてしまい、認知症の人やその家族を傷つけてしまいます。認知症への無理解から差別的な対応をされることで、認知症の人やその家族にとって、社会は居心地の悪い場所になるおそれがあります。

○認知症への偏見① 認知症になったら何もわからなくなる ✖

認知症になると、もの忘れによる失敗やいままで当たり前にやっていた家事や仕事で失敗することなどが徐々に増えますが、「何となくおかしい」と最初に気づくのはほとんどの場合本人であるといいます。「認知症かもしれない……」と不安になってふさぎ込むことがあり、否定したい気持ちから「誰かが陥れようとしている」などと思いこむようになることがあります。
そもそも認知症になったからといってすべてを忘れたり、何もできなくなったりするわけではありません。抽象的な表現や事柄を理解するのは難しくなるものの、具体的な問いかけや会話を心がけることで、コミュニケーションを図ることは可能です。「どうせすぐ忘れてしまうから」と本人の意向を無視して物事を進めてしまうと、周囲の人への不信感につながり、興奮や暴言など「行動・心理症状(BPSD)」と呼ばれる症状を悪化させることがあります。

○認知症への偏見② 認知症の人はすぐ忘れちゃうから気楽 ✖

「自分は認知症かも」と気づいたときの不安、認知症と診断されたときのショックで、いちばん苦しい思いをするのは本人です。物事を数分で忘れたとしても、「さっき言ったでしょ」「もう忘れたの」などといわれたら、「自分はダメだ」「迷惑をかけた」と悲しくなり、その気持ちは心に残ります。人によってはそれが怒りとなってあらわれることもあります。
記憶障害などが進んでも喜怒哀楽といった感情の世界は残り、むしろ鋭敏になるともいわれています。「うれしい」「楽しい」といったよい感情も残るため、本人の気持ちに寄り添った対応を心がけることが大切なのです。

誰でも認知症になる可能性があります。より多くの人が認知症を正しく理解することが、認知症になっても安心して暮らせる社会をつくることにつながります。

1) Katsuo Yamanaka, Naoya Todo, Mutsumi Yoshizawa,Tatsuji Uchida. Cross-sectional survey of the replacement of the Japanese term for dementia: Did it reduce discomfort in family members?:BRAIN and NERVE. 2021;11:e02012.|1 of 11https://doi.org/10.1002/brb3.2012

監修 東京大学大学院医学系研究科
   老年病学 准教授
   小川 純人 先生

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