人生100年時代、認知症の予防と対策
認知症のリスクを減らすためには、生活習慣病の予防と適切な治療が大切です。
生活習慣病と認知症の関係
認知症の発症には加齢や遺伝的素因のほかに、高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病との関係性も示唆されています。特に、中年期の高血圧は高齢になってからの認知症や認知機能低下の危険因子、中年期の脂質異常症(とくに高コレステロール血症)はアルツハイマー型認知症の危険因子であり、中年期からきちんと予防することが大切です。
また、血管性障害が起因と考えられる血管性認知症は、脳卒中を予防することが認知症の予防にもつながります。脳卒中は高血圧や脂質異常症などの生活習慣病が発症のリスクになります。血管性認知症は予防できる認知症といわれ、生活習慣を改善することがもっとも有効な予防法です。
最近は、慢性腎臓病(CKD)や糖尿病と関係性が高い歯周病も認知症のリスクを高めるといわれています。
生活習慣病を予防する生活とは
認知症のリスク因子でもある生活習慣病の予防策としておすすめしたいのは、「7つの健康習慣」です。これは米国・カリフォルニア大学のブレスロー教授が生活習慣と健康との関係を調べ提唱したものですが、日本人にも効果があり比較的取り入れやすい内容です。ほかにも歯周病の予防や治療、上手なストレス解消も大切です。出来ることから始めてみてはいかがでしょうか。
7つの健康習慣 |
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①喫煙をしない
②定期的に運動する ③飲酒は適量※1を守るか、飲酒しない ④1日7〜8時間の睡眠をとる ⑤適正体重※2を維持する ⑥朝食を食べる ⑦間食をしない
※1 アルコールの適量:純アルコール20g。ビールなら中ビン1本、日本酒なら1合、焼酎なら100ml、ワインなら200ml、チューハイ(7%)なら350mL缶1本、ウィスキーダブル水割り1杯に相当する
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軽度認知障害(MCI)から認知症への進行を食い止める
軽度認知障害(MCI)とは、軽度の認知機能低下はあるものの認知症とまではいえない状態をいいます。MCIから認知症へと進む人の割合は年に5〜15%といわれる一方、MCIによる症状が改善され正常に戻る割合が年に16~41%と考えられています。
MCIから認知症に進みやすい危険因子としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症)があり、過去に脳梗塞などの脳血管疾患にかかったことのある人も高リスクであることがわかっています。
認知症に進行するのを食い止めるためには、やはりここでも生活習慣病予防がカギ。高血圧、糖尿病、脂質異常症などを管理し、適度な運動を継続するなどして、危険因子を1つでも多く減らすことが重要です。
体力もつけながら認知症を予防する「コグニサイズ」
認知症を完全に予防することは難しいのが現状ですが、いくつかの研究でMCIの段階で有酸素運動を定期的に行うことは認知症への進行を予防する効果があると示されています。国立長寿医療研究センターが自治体などと協力して進めてきた研究をもとに開発されたトレーニング「コグニサイズ」は脳内で記憶を司る「海馬」の萎縮の進行を抑制したことも確認されました。
コグニサイズは運動と計算・しりとりなどの認知課題を組み合わせたエクササイズをいいます。英語で「認知」を意味する「cognition」と運動を意味する「exercise」の2つの語を組み合わせた造語です。頭では計算やしりとりなどの認知課題に取り組みながら、ウオーキングや腕振りなどの運動を行います。このように頭と体を同時に使うことがコグニサイズの特徴で、認知症の発症を遅らせる効果が期待できます。
コグニサイズの方法
「足踏み+数を数える」「ウオーキング+引き算」「ステップ台昇降+しりとり」など、様々な運動課題と認知課題を組み合わせることができます。
ここでは1人でできるコグニサイズを紹介します。
○コグニステップ1
3の倍数で間違えずにできたら、前後のステップも加えてみたり、3以外の倍数で行ってみたりなど、応用してください。
○コグニステップ2
手と同時にステップが止まらないように注意しましょう。
○コグニウオーク
人や物にぶつからない、転倒しないように気をつけて行ってください。
コグニサイズを適正な強度で行うために
運動は適切な強度で行うことが大切です。そのためにはまず安静時の心拍数(脈拍数)を測り、次の計算式で目標心拍数を求めます。
(例) 安静時心拍数が70の75歳の人
最大心拍数は 207-(75×0.7)=154.5 予備心拍数は 154.5-70=84.5 目標心拍数は 0.6×84.5+70=120.7 |
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コグニサイズを安全に効果的に行うための10か条
1条無理はしないで徐々に行う
2条ストレッチしてから開始する
3条水分を補給する
4条痛みが起きたら休息を取る
5条トレーニング中の転倒に注意
6条少しの時間でもできるだけ毎日行う
7条「ややきつい」と感じるくらいの運動を行う
8条慣れてきたら次の課題にうつる
9条トレーニング内容は複数の種目を行う
10条継続がもっとも大切
人生100年時代。体と脳の健康を保つために、毎日のコグニサイズを続けてみませんか。
<参考資料>
・「コグニサイズ 認知症予防に向けた運動」国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/gerontology/documents/cogni.pdf(2022年12月閲覧)
監修 東京大学大学院医学系研究科
老年病学 教授
小川 純人 先生
この記事は2022年12月現在の情報となります。