それぞれのがんの解説

乳がん

「乳房」と「乳がん」の基礎知識

乳房(にゅうぼう)は、母乳をつくる「乳腺」と、その乳腺を包む脂肪でできています。乳房にはたくさんのリンパ管があり、乳房の外側のリンパ管は脇の下に集まります。これを腋窩(えきか)リンパ節といいます。

乳がんのほとんどは乳腺に発生します。そのため、乳腺が多く存在する乳房の外側上部や内側上部の発生頻度が高く、続いて外側下部、内側下部、乳輪部となります。がんが全体に及んだり、2個以上のがんができる場合もあります。なお、転移する頻度が最も高いのは腋窩リンパ節です。

乳がんというと女性特有のがんと思われがちですが、男性にできることもあります。男性の乳がんは乳がん全体の約1%といわれ、非常にまれな「希少がん」の1つに数えられます。

日本人女性の12人に1人が発症

乳がんを発症する人は増えており、国立がん研究センターが公開している統計情報によると、2018年の乳がん診断数は9万4,519例(男性661例、女性9万3,858例)。人口10万人あたりの罹患率は74.8例(男性1.1例、女性144.6例)です。
2018年のデータからも乳がんは日本人女性が最も多く罹患しているがんで、生涯においておよそ12人に1人が乳がんになるといわれています。
女性の乳がんは、40歳くらいから増え始め、70代までは高めに推移します。その後減少していきます。

乳がんになる要因

乳がんを発症する要因には遺伝的なものと環境的要因があります。また、女性ホルモンのエストロゲンが深くかかわっていることがわかっています。

遺伝的要因とは、生まれつき特定のがんになりやすい傾向があるというものです。自分の親や子どもに乳がん、もしくは卵巣がんの患者さんが多い場合、乳がんになりやすいと考えられます。遺伝的な要因をもった乳がんの特徴には、40歳未満の若い年齢において乳がんを発症する、家系内に複数の乳がん、卵巣がん患者が認められる、片方に乳がんを発症後、反対側の乳がんも発症する、あるいは卵巣がんも発症することが挙げられます。

環境的要因とは、生まれてから成長し、生活していくなかで影響を受けるものをいいます。食生活や生活習慣、飲酒、喫煙、これまでかかった病気などが環境要因となります。乳がんでは、閉経後の肥満、お酒を飲む量が多い、運動不足などが発症リスクと考えられています。
また、出産経験のない人、初産年齢が高い人、授乳経験がない人、初潮年齢が早い人、閉経年齢が遅い人では乳がん発症リスクが高いこともわかっています。

乳がんの症状

乳がんの特徴的な症状は乳房のしこりです。ほかに、乳房にエクボのようなくぼみができる、左右の乳房のかたちが非対称になる、乳頭がへこむ、乳頭から分泌物が出るなどがあります。また、脇の下にしこりがみられることもあります。乳がんは自分で見つけることのできるがんです。日頃からのセルフチェックを心がけましょう。そして、セルフチェックとともに定期的に乳がん検診を受けることも重要です。

乳がんの検査

現在、40歳以上の女性は2年に1回は乳がん検診を受けることが推奨されています。ほとんどの市町村で検診費用の多くを公費で負担しています。乳がんは早期に発見し治療すれば治る可能性が高いがんですので、乳がん検診は必ず受けるようにしましょう。検診の内容はマンモグラフィ検査(乳房エックス線検査)と問診です。がん検診で「要精密検査」という結果がでたら、超音波検査、MRI検査、細胞診や組織診(針生検)などの精密検査を行います。

マンモグラフィ検査では、腫瘤や石灰化があるかどうかがわかります。腫瘤とはマンモグラフィで撮影したときに白くみえるしこりをいい、石灰化とは乳房の一部に沈着したカルシウムのかたまりのことをいいます。
問診では、初潮や閉経の時期、月経の状況、出産・授乳の経験、家族にがんの人がいるかどうかなど聞きとり、乳がんのリスクを判断します。

乳がんの精密検査では、マンモグラフィ検査のほかに、超音波検査、MRI検査、細胞診・組織診を必要に応じて行います。
転移の有無を調べるためにCT検査や骨シンチグラフィ検査を行うこともあります。

乳がんの進行度と治療選択

乳がんの進行度は、Ⅰ期からⅣ期に分けられます。また、がん細胞が乳管や乳腺小葉内にとどまっている早期の乳がんを0期と分類します。
0期はきわめて早期のもの、Ⅰ期、ⅡA期、ⅡB期はリンパ節やほかの臓器への転移がないもの、ⅢA期、ⅢB期、乳房の腫瘍が大きいかリンパ節への転移はあるがほかの臓器に転移がないもの、ⅢC期は広範なリンパ節に転移があるもの、Ⅳ期は乳房から離れた臓器への転移があるものです。

進行度、患者さんの年齢やからだの状態などによって治療方針が決定されます。
0期からⅢA期は手術の対象となります。がんが大きい場合は、手術の前に薬物療法「術前薬物療法」を行い、がんを小さくすることがあります。
乳がんの手術は、「乳房部分切除術(乳房温存手術)」と「乳房全切除術」に大きく分けられます。それぞれにメリットとデメリットがあるので、主治医などから十分に説明を聞き、納得できる方法を選ぶようにしましょう。
また、手術で切除したがんを病理検査で詳しく調べ、再発のリスクが高い場合は、術後に放射線治療や薬物療法を追加します。

ⅢB期、ⅢC期、Ⅳ期は薬物療法が中心ですが、患者さんの状態に応じて手術や放射線治療を行うこともあります。

乳がんの薬物療法で用いられる薬には、ホルモン療法薬、分子標的薬、細胞障害性抗がん薬があります。乳がんは、がん細胞の特徴を調べて、それぞれの患者さんに適した薬が使用されます。ホルモン療法薬はがん細胞のホルモン受容体検査で陽性だった場合に使用し、分子標的薬はがん細胞の表面に「HER2」というタンパク質がある場合に使用します。ホルモン受容体もHER2も陰性だった場合は、細胞障害性抗がん薬が使用されます。

センチネルリンパ節生検

がんがリンパで転移するときに、最初にたどり着くリンパ節のことを「センチネルリンパ節」といいます。センチネルリンパ節にがん細胞がみつからない場合は、転移がないと考え、それ以外のリンパ節を切除することはありません。
センチネルリンパ節生検は術中に行われ、転移が確認された場合は、わきの下のリンパ節を切除します。これを「腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)」といいます。
腋窩リンパ節郭清を行うと、「リンパ浮腫」が起こるリスクが高まります。腕や肩の運動を取り入れて予防に努めましょう。

監修 神戸大学医学部附属病院
   腫瘍・血液内科 教授
   腫瘍センター センター長
   南 博信 先生

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