それぞれのがんの解説

血液のがん

血液の基礎知識

血液には、全身のすみずみに酸素を届ける「赤血球」、ウイルスやがん細胞などの異物からからだを守る免疫をつかさどる「白血球」、出血を止める「血小板」という3種類の「血球」と、栄養の運搬や免疫などにかかわる「血漿(けっしょう)」という液体でできています。

赤血球、白血球、血小板といった血球は、骨髄のなかにある「造血幹細胞」という細胞からつくられます。白血球はさらに、顆粒球、単球、リンパ球に分かれます。そのなかでもリンパ球は重要な免疫細胞で、T細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などに分類されます。

血液のがん

血液のがんには、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などがあります。
血液のがんの治療は主に薬物療法になります。造血幹細胞移植も治療の選択肢の1つですが、患者さんとヒト白血球抗原(HLA型)が一致する骨髄の提供者(ドナー)がみつかるまで長い時間を要することがあります。白血病など血液のがんは、ドラマなどで不治の病の印象をつけられてしまいましたが、近年治療成績は向上しています。

白血病

白血病とは

白血病は、血液をつくる造血幹細胞で何らかの理由で増殖が止まらない異常な「白血病細胞」がつくられたことにより発症します。その結果、正常な血液細胞がつくられなくなります。

白血病は高齢者に多い

白血病は増加傾向にあるがんの1つです。若い世代のがんのなかでは白血病は多いのですが、白血病全体の患者さんをみた場合、やはり高齢者の発症が多いです。
国立がん研究センターの公開している統計情報によると、2018年の白血病診断数は1万4,287例(男性8,359例、女性5,928例)。人口10万人あたりの罹患率は11.3例(男性13.6例、女性9.1例)です。

白血病になる要因

なぜ白血病になるのかはまだよくわかっていません。ほかのがんと同じように、遺伝子に複数のキズができることが原因ではないかと考えられています。遺伝子にキズをつける要因として、たばこに含まれる有害物質、自然界にも存在するし検査でも浴びる放射線、さまざまな発がん物質などがあげられます。また、成人T細胞白血病など、ウイルス感染が原因の白血病もあります。

白血病の症状

症状は発熱、息切れ、疲労感、あざができやすく出血しやすいなどです。正常な赤血球、白血球、血小板が少なくなるため、これらの症状がみられます。慢性の白血病では症状がなく、健康診断などでみつかることもあります。
進行して白血病細胞が臓器に広がると、肝臓や脾臓の腫れによるおなかの張りや痛み、歯ぐきの腫れ、腰痛や関節痛、頭痛や吐き気、首のリンパ節の腫れなどがみられるようになります。

白血病の検査

白血病の主な検査は、血液検査と骨髄検査です。
白血病による臓器への影響や進行度を確認するために、エックス線検査や超音波検査、CT検査などの画像検査を行うこともあります。

血液検査で白血病細胞の有無を確認します。ただし、早期では確認できない場合があります。続いて、骨髄検査を行います。骨の中にある骨髄液を採取します。採取した骨髄液を顕微鏡で観察し、異常な形の細胞の有無、細胞の染色体や遺伝子など調べて、確定診断と白血病の種類の見極めを行います。

白血病の種類と治療選択

白血病には、いくつか種類がありますが、急性と慢性に大きく分けられます。急性白血病はがん細胞がとても速いスピードで増殖します。一方、慢性白血病では増殖スピードがゆっくりしています。

急性白血病 急性骨髄性白血病
急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫
急性前骨髄球性白血病 など
慢性白血病 慢性骨髄性白血病 など

【急性骨髄性白血病/急性前骨髄球性白血病】

どちらも造血幹細胞に異常が起きてがん化し、骨髄の中で白血病細胞が異常に増えてしまう病気です。
治療は、抗がん剤や分子標的薬、放射線を用いて、血液や骨髄のなかにある白血病細胞を死滅させます。その後、造血幹細胞移植を行うこともあります。急性骨髄性白血病は進行が早いため、何より早期に診断し治療することが重要です。

【急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫】

白血球の一種であるリンパ球が成熟する前の段階でがん化し、無制限に増殖してしまう病気です。増殖が骨髄で起こるものを「急性リンパ性白血病」、リンパ節などで起こるものを「リンパ芽球性リンパ腫」と呼びます。
治療は抗がん剤による化学療法が中心ですが、分子標的薬を使うこともあります。

【慢性骨髄性白血病】

慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞に異常が起きてがん化し、無制限に増殖する病気です。比較的ゆっくりと進行することが特徴です。
病期は「慢性期」「移行期」「急性転化期」に分けられます。がん化するのは主に白血球ですが、慢性骨髄性白血病の白血病細胞は正常な白血球に近い働きをするため、慢性期ではほぼ無症状です。慢性期は一般的に5年くらい続きます。
移行期になると、発熱や骨の痛み、脾臓が腫れることによるおなかの張りなどがみられます。
急性転化期では異常な細胞が増え正常な細胞がつくられなくなるため、貧血や疲労感、感染症にかかりやすい、出血しやすいなどの症状が現れ、急性骨髄性白血病とほぼ同じ状態になります。
治療の中心は分子標的薬ですが、進行した場合は急性骨髄性白血病と同じ治療を検討します。急性転化期に移行しないための治療が目的となります。

白血病の治療の進め方

白血病の治療は、骨髄の機能が正常に戻る「完全寛解」を可能な限り目指します。
完全寛解を目指す治療を「寛解導入療法」といいます。化学療法によって完全寛解が達成できても、体内に残る白血病細胞が再び増殖しないように「地固め療法」「維持療法」といった化学療法を行います。このような化学療法を重ねて行うことで根治を目指します。治療は長期にわたり副作用などにも悩まされますが、途中で中止すると再発する可能性が高くなります。
白血病の化学療法中に最も気をつけなければいけないのは感染症です。場合によっては、クリーンルームという特別な空調設備を使用して、ウイルスなどを除去した部屋で過ごしてもらうこともあります。

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫とは

多発性骨髄腫は、白血球のなかのリンパ球の1つであるB細胞から分化した「形質細胞」ががん化することで発症します。
形質細胞には、体内に入ってきた細菌やウイルスを攻撃する抗体という物質をつくる役割があります。しかし、がん化すると異常な「骨髄腫細胞」に変化し、正常な抗体がつくれなくなってしまうのです。正常な抗体の代わりに「Mタンパク」という異常な物質をつくり出し、腎障害や骨破壊を引きおこします。

多発性骨髄腫は高齢化とともに増加する

多発性骨髄腫は高齢者に多い病気で、診断される人のほとんどが60歳以上です。
国立がん研究センターの公開する統計情報によると、2018年の多発性骨髄腫診断数は7,765例(男性4,126例、女性3,639例)。人口10万人あたりの罹患率は6.1例(男性6.7例、女性5.6例)です。
今後、高齢化に伴って発症する人は増えていくと考えられています。

多発性骨髄腫になる要因

多発性骨髄腫になる要因はまだよくわかっていませんが、ほかのがんと同じように遺伝子に複数のキズができて発生すると考えられています。

多発性骨髄腫の症状

息切れや動悸などの貧血症状、出血しやすいなどの症状がみられます。正常な白血球が減少し、骨髄腫細胞ばかりになると、細菌やウイルスを防御する力が弱まるため、肺炎や尿路感染症などの感染症にかかりやすくなります。
骨髄腫細胞のつくるMタンパクが腎臓の細い血管に詰まることで腎障害を発症することがあります。腎障害ではむくみやだるさなどの症状がみられます。
また、骨破壊が進行すると腰痛などの骨の痛みや骨折するようになります。血液中のカルシウムが過剰に増えることで高カルシウム血症を合併した場合、口の渇き、脱力感、吐き気、不整脈、めまい、意識障害などが現れます。
多発性骨髄腫の症状は、高齢になると多くの人が経験するものが多く見逃されやすいのですが、だからこそ定期的な健康診断を受けることが大切です。

多発性骨髄腫の検査

診断のために、尿検査、血液検査、骨髄検査、CTやMRIなどの画像検査を行います。

尿検査では、尿のなかに排出されるMタンパクの有無、腎機能の状態を調べます。
血液検査でもMタンパクや赤血球、白血球、血小板などの血液の成分のバランスを調べることで、骨髄の造血機能が低下しているかどうかを確認します。病期を見極めるために、「血清アルブミン」「血清β2ミクログロブリン」という物質の量も調べます。ほかにも、正常な抗体である免疫グロブリン、腎機能が低下すると増える血液尿素窒素やクレアチニンなど、骨破壊が進むと増えるカルシウムなどの量も調べます。
※正常な形質細胞がつくりだし、細菌やウイルスを攻撃する抗体です。多発性骨髄腫では免疫グロブリンが減少します。
骨髄検査では、骨の中にある骨髄液を採取し顕微鏡で観察します。異常なかたちの細胞の有無や量、染色体などを確認して確定診断に結びつけます。
さらに、多発性骨髄腫の影響が、骨やほかの臓器や器官にどのくらい広がっているかを調べるために画像検査を行います。

多発性骨髄腫の進行度と治療選択

多発性骨髄腫の進行度は、異常な骨髄腫細胞の量と、血液中の「血清アルブミン」「血清β2ミクログロブリン」の量で判断します。Ⅰ期からⅢ期の3段階に分けられます。

骨髄内に骨髄腫細胞やMタンパクがある程度あっても、腎障害や高カルシウム血症など、ほかの臓器に症状がない場合は、定期検診のみで様子をみていきます。

骨髄腫細胞やMタンパクが増え、ほかの臓器にも異常がみられるようになったら治療を開始します。治療は薬物療法が中心です。抗がん剤や分子標的薬と、免疫調整薬、ステロイド薬を組み合わせた治療が一般的で、可能なら造血幹細胞移植を行います。
薬物療法では、複数の薬剤を用いて「完全寛解」を目指す治療を行います。診断されたとき、重度の腎障害や骨破壊がある場合は、先にこれらの治療を行うことがあります。
多発性骨髄腫は再発しやすい病気ですが、治療法の進化に伴い、長期の寛解を維持できるようになってきました。

造血幹細胞移植の対象となるのは、65歳以下で重い合併症(腎障害など)がなく、心臓や肺の機能が正常な人です。多発性骨髄腫の場合は、自家移植といって事前に採取し冷凍保存しておいた自分の造血幹細胞を移植します。

監修 神戸大学医学部附属病院
   腫瘍・血液内科 教授
   腫瘍センター センター長
   南 博信 先生

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