それぞれのがんの解説

前立腺がん

「前立腺」と「前立腺がん」の基礎知識

前立腺は男性だけにある臓器です。膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むような位置にあります。大きさもかたちも栗の実に似ています。

前立腺は、精液の一部となる前立腺液をつくっていること以外の働きについてはよくわかっていません。

前立腺がんは比較的ゆっくり進行するため、早期発見すれば治癒する可能性が高いがんです。

男性で最も多いがんが前立腺がん

前立腺がんの患者数は世界的にとても多く、日本でも、高齢化や食生活の欧米化を背景に増えています。前立腺がんを早期発見できるPSA検査の普及により、とくに2000年代前半から急増しました。
国立がん研究センターの公開している統計情報によると、2018年の前立腺がん診断数は9万2,021例。人口10万人あたりの罹患率は149.5例です。
前立腺がんの患者さんは、50代から急増し、80歳以上では日本人男性の半数以上に前立腺がんが潜んでいるのではないかともいわれています。前立腺がんは進行が遅いため、初期では前立腺がんと気づかないまま生活している人も少なくありません。そのような人がほかの病気で亡くなり、病理検査をした結果、前立腺がんが見つかることがあります。

前立腺がんになる要因

前立腺がんの発生には男性ホルモンがかかわっていることがわかっています。また、高齢者での発症が多いことから加齢も一因だと考えられています。血縁者に前立腺がんの人がいる場合は、リスクが高くなります。
肥満や喫煙による発症リスクはまだ明らかになっていません。

前立腺がんの症状

はじめの頃は症状がありませんが、進行してくると、尿が出にくい、排尿時に痛みを感じる、尿や精液に血が混じるなどの症状が現れることがあります。
また、前立腺がんは骨に転移しやすく、骨の痛みで前立腺がんに気づくこともあります。

「尿が出にくい」などの症状は、前立腺肥大症など良性の病気でも起こりますが、このような症状に気づいたら自己判断せず、受診してください。

前立腺がんの検査

前立腺がんの検査としては、まずPSA検査と直腸診が行われます。その結果、前立腺がんが疑われる場合に、精密検査として超音波検査(経直腸エコー)や前立腺生検、MRI検査、CT検査などを行ったうえで診断します。

PSA検査は、血液検査で「PSA」の数値を調べます。「PSA」は前立腺の細胞から分泌される物質で、前立腺がんだけでなく、前立腺肥大症や前立腺炎などでも増加します。基準値は4ng/㎖以下。ただし、4ng/㎖以下でもがんが発見されることや、10 ng/㎖を超えていてもがんではないこともあります。基準値を超えたらほかの検査を組み合わせて診断します。

直腸診は、医師が肛門から指を挿入し、前立腺に触れて大きさやデコボコの有無などを確認します。経直腸エコーでは、超音波を発する棒状の器具(プローブ)を肛門から挿入し、前立腺の大きさや形を調べます。

前立腺がんの疑いがある場合は、前立腺生検といい前立腺に針を刺して組織を採取し、病理検査でがんかどうかを確認する検査を行います。

がんと診断された後に、MRI検査を行って前立腺のなかでがんがどのくらい広がっているか調べます。また、CT検査、骨シンチグラフィー検査で、転移の有無を調べます。

前立腺がんの進行度と治療選択

がん細胞の悪性度については、前立腺生検で採取した細胞を調べて2から10までの9段階に分ける「グリーソン・スコア」があります。グリーソン・スコアが6以下は悪性度が低く比較的おとなしいがん、7は中くらい、8〜10は悪性度の高いがんとされています。

転移のない前立腺がんについては、進行度(病期)、グリーソン・スコア、PSA値を用いて、がんのリスクを次の3段階に分類します。

リスク 進行度 グリーソン・スコア PSA値
低リスク T1~T2a 6以下 10ng/㎖未満
中間リスク T2b~T2c 7 10〜20ng/㎖
高リスク T3a 8〜10 20ng/㎖以上

前立腺がんは、進行度、グリーソン・スコア、PSA値、リスク分類などとともに、患者さんの年齢やからだの状態、患者さんの治療に対する希望などを総合的に考えて、治療方針が決定されます。

前立腺がんの治療は、手術、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)のほかに、低リスクの患者さんに対しては「監視療法」と「フォーカルセラピー」があります。
監視療法は、3~6カ月ごとのPSA検査と直腸診を、1〜3年ごとの前立腺生検でがんの様子を観察しながら、悪化の兆しがみえた時点で治療を行うというものです。PSA検査によって前立腺がんと診断された患者さんのなかには、前立腺がんがその人の生命予後に影響を与えないことがあります。がんが前立腺内にとどまっている低リスク群の患者さんに対しては、根治治療を行わず、監視療法が選択されることがあります。治療に伴うQOLの低下を回避することが可能ですが、治療をしないことによる不安を抱える患者さんもいます。監視療法を選択する場合には、前立腺がんの病期・特徴、患者さんの年齢、全身状態などを深く考慮することが求められています。
フォーカルセラピーは、からだへの負担が少ない超音波治療などを行いながら、がんの様子を観察し、悪化の兆しがみえたら手術などの治療を行います。

手術の対象になるのは、がんが前立腺のなかにとどまっている場合ですが、前立腺の被膜を超えている場合でも手術を行うことがあります。前立腺がんの標準的な手術は、前立腺と精のうを摘出する「前立腺全摘除術」です。前立腺の周辺のリンパ節を合わせて切除することもあります。
開腹手術のほかに、腹腔鏡手術、ロボット手術があり、最近はからだの負担が少なく、術後の合併症(尿失禁、性機能障害)からの回復も早い、腹腔鏡手術やロボット手術が増えてきました。

放射線療法の対象は幅広く、がんが前立腺のなかにとどまっている場合でも手術を望まない人では放射線療法が選択されますし、転移がみられる場合でも放射線療法を行うことがあります。
前立腺がんの放射線療法には、からだの外から前立腺に対して放射線を照射する方法と、放射線源を密封した小さな容器を前立腺のなかに埋めこんで体内から照射する方法があります。また、前立腺がんに対しては重粒子線治療も保険適用されています。

前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けやすいため、男性ホルモンの働きを弱めるホルモン剤を使う内分泌療法を行います。手術や放射線治療を行うことが難しい患者さんのほか、他臓器に転移した場合などに行われます。内分泌療法は長く続けていくと効果が弱くなります。その場合は、別のホルモン剤、もしくは抗がん剤に切り替えます。

監修 神戸大学医学部附属病院
   腫瘍・血液内科 教授
   腫瘍センター センター長
   南 博信 先生

この記事は2021年11月現在の情報となります。

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