それぞれのがんの解説

胃がん

「胃」と「胃がん」の基礎知識

胃は「胃袋」ともいうように袋状の臓器です。食道から続く胃の入口部分を「噴門(ふんもん)」、出口部分を「幽門(ゆうもん)」といいます。

胃の主な働きは、食べたものを一時的に貯蔵し、消化することです。食べたものが胃のなかに入ると、胃の粘膜から分泌された胃液や消化酵素を含む消化液と混ざり合い、お粥のような状態になります。そのような状態になると幽門が開き、少しずつ十二指腸へと送り出されていきます。

胃の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜と呼ばれる層になっています。最初にがんが発生するのは粘膜で、がんが大きくなるにつれて粘膜から粘膜下層、固有筋層、さらには漿膜へと外側に向かって広がっていきます。胃がんが進行すると、漿膜を超えて大腸や膵臓など周囲の臓器にもがんが浸潤していきます。

スキルス胃がんとは

スキルス胃がんは、胃の壁を硬く厚くさせながら染み込むように広がっていくタイプの胃がんです。明らかな隆起や潰瘍などがみられないため、胃内視鏡検査でもみつけにくいという特徴があります。そのため、多くが進行して症状があらわれてから発見されることになります。

胃がんは日本人に多いがんだが、減少傾向にある

胃がんは日本人に多いがんの1つで、かつては部位別の罹患数、死亡数ともに1位でした。近年は緩やかな減少傾向にあり、国立がん研究センターの公開している統計情報によると、2018年に新たに胃がんと診断された数は、12万6,008例(男性8万6,905例、女性3万9,103例)でした。人口10万人あたりの罹患率は99.7例(男性141.2例、女性60.2例)です。

年齢別にみると、男性、女性とも85〜89歳が最も多く、男性では55代後半、女性では60代くらいから増え始めます。

胃がんになる要因

主な要因には、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染、喫煙、塩分の多い食事、お酒の飲み過ぎなどがあげられます。

ピロリ菌は胃がんのリスクですが、感染した人がすべて胃がんになるわけではありません。

胃がんの症状

代表的な症状は、みぞおちの痛み、胃の不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などです。しかし、早期では自覚症状がほとんどなく、進行しても症状が出ない人もいます。

胃がんが進行すると、がんがある部分(病変部)から出血する量が増え、便に血が混じり黒くなったり、貧血の症状があらわれたりします。また、食事がつかえる、体重が減るといった症状もみられます。

胃がんの検査

胃がんを疑う症状がある場合は、胃内視鏡検査を行い、胃の粘膜を観察します。がんを疑う病変が見つかった場合は、その部分の組織を採取して病理検査を行います。

がんと診断された場合は、CT検査やMRI検査でがんの広がり、つまり周辺の臓器への浸潤、リンパ節や遠方への転移の有無などを確認します。超音波内視鏡検査などを行うこともあります。

胃がんの進行度と治療選択

胃がんの進行度は、Ⅰ期からⅣ期に分けられます。がんの深さ(深達度)、リンパ節への転移および他臓器の転移(遠隔転移)の状況で判断します。胃がんの進行度はさらにⅠ期で2つ、Ⅱ期で2つ、Ⅲ期で3つに分類されます。「早期胃がん」はがんが粘膜および粘膜下層にとどまるもの、「進行胃がん」は粘膜下層よりも深いものをいいます。

胃がんの進行度、患者さんの年齢やからだの状態などによって治療方針が決定されます。胃がんの治療法には、内視鏡治療、手術、がん薬物療法、放射線療法があります。

がんの深達度が粘膜までで、リンパ節転移がない場合は、口から内視鏡を入れ、胃の内側からがんを切除する内視鏡治療が選択できます。体への負担が小さく、胃を残せるため、治療前と同じ食生活を送ることができます。

遠隔転移がなく、深達度が粘膜下層または粘膜下層よりも深い場合、手術が選択されます。胃がんの進行度によっては手術の後に薬物療法を追加することも多いです。手術の前に薬物療法を行う場合もあります。

手術には開腹手術と腹腔鏡手術があり、最近はロボット手術による腹腔鏡手術を行う医療機関も増えてきました。

遠隔転移がある場合や再発時は薬物療法が中心となります。

~~胃がんの手術~~

胃がんの手術で、どのくらいの範囲を切除するかは、がんがある場所とどのくらいがんが進行しているかによって判断します。代表的な胃切除の方法は次の通りです。

胃と一緒に周囲のリンパ節を切除する「リンパ節郭清」も行います。どのくらいの範囲のリンパ節を切除するかは、がんの進行度により判断します。

胃の周辺の臓器にがんが浸潤している場合は、その臓器も一部切除します(合併切除)。

胃の切除後は、食べものが直接腸へと流れ込むことで、めまいや発汗、頭痛、手指の震えなどのダンピング症候群が起こることがあります。1回の食事量を減らして回数を増やす、しっかりと咀嚼するなどの工夫がダンピング症候群の予防につながります。

監修 神戸大学医学部附属病院
   腫瘍・血液内科 教授
   腫瘍センター センター長
   南 博信 先生

この記事は2022年6月現在の情報となります。

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