認知症の治療
薬を使った治療(薬物療法)
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に対し、症状の進行を抑える薬が使用されます。
症状の進行を抑えるために使います
認知症には、脳の障害によって起きる中核症状(記憶障害や言語障害など)と、中核症状に環境や心理状態が合わさって起きる行動・心理症状(不安や徘徊、暴力など)があります。
かつて認知症には、記憶障害などの中核症状を治療するための薬はありませんでした。しかし、1999年に最初の薬が認可され、現在では6種類の成分の薬が保険適用となっています(2025年6月現在)。主な対象はアルツハイマー型認知症で、1種類だけレビー小体型認知症にも適用となっています。
現在使われている薬は、認知症そのものを治す薬ではありません。あくまでも症状の進行を緩やかにして「本人が長くその人らしく暮らせるようにすること」をめざします。認知症の薬には大きく分わけて脳の神経伝達を整える薬と、脳内に蓄積し認知症の原因となるタンパク質を除去する薬があります。脳の神経伝達を整える薬には作用の仕方で、大きく「コリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体阻害薬」の2つのタイプがあります。
脳内に蓄積し、認知症の原因となるタンパク質を除去する薬は、2023年から使用できるようになった新しい薬です。また、2023年にはコリンエステラーゼ阻害薬に新たな貼り薬が登場するなど、認知症の薬物療法の選択肢が増えています。
【脳の神経伝達を整える薬】
○アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症になると、脳内にある「アセチルコリン」という物質が少なくなります。アセチルコリンは脳の中で情報を伝える役割を果たしている物質(神経伝達物質)で、アセチルコリンが少なくなると脳内の情報伝達がうまくいかなくなり、認知機能に障害がでると考えられています。
コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する「コリンエステラーゼ」という分解酵素に結合し、アセチルコリンが分解されないようにする薬です。錠剤や内服ゼリー、ドライシロップ、口腔内崩壊錠(OD錠)のほか、皮膚に貼ることで薬効成分が吸収される貼り薬があります。

○NMDA受容体拮抗薬
アルツハイマー型認知症にかかわる神経伝達物質には、アセチルコリンのほかに「グルタミン酸」があります。グルタミン酸は主に記憶などに関連する神経伝達物質で、NMDA受容体はその受け皿となるものです。私たちがなにかを覚えようとするとき、脳内ではグルタミン酸がたくさん発生します。グルタミン酸にはNMDA受容体にあるふたを開ける役割があり、ふたの開いたところから神経細胞にカルシウムイオンが流れ込むことで記憶されるという仕組みになっています。しかし、アルツハイマー型認知症になると、必要のないときにもグルタミン酸が発生するようになり、NMDA受容体から大量のカルシウムイオンが流れ込んで神経細胞が壊れてしまうと考えられています。
NMDA受容体拮抗薬は、NMDA受容体に結合してふたをし、カルシウムイオンの流入をブロックします。その結果、脳内の情報伝達を整え記憶障害などの進行を防ぐのです。

【脳内に蓄積し、認知症の原因となるタンパク質を除去する薬】
○抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)
アルツハイマー型認知症の発症、進行には、神経細胞を壊す「アミロイドβ」というタンパク質が深くかかわっていると考えられています。この「アミロイドβ」が脳の神経細胞の外側に蓄積すると、徐々に大きなかたまりとなって神経細胞を減らしてしまったり、神経伝達が障害されたりするため、認知機能の低下が進みます。抗アミロイドβ抗体薬は脳内のアミロイドβに結合し、免疫細胞の働きによる脳内からの除去を促す作用があるため、軽度認知障害(MCI)や軽度のアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。抗アミロイドβ抗体薬による治療は、事前にアミロイドPET検査や脳脊髄液検査などによって脳内にアミロイドβが蓄積していることが確認できた(MCIや軽度アルツハイマー型認知症の)人に対してのみ行われます。

一人ひとりに合わせて使い分けます
実際の治療では、認知症の進行状況や症状、本人の体の状態などを考慮しながら薬を使い分けます。場合によってはコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体阻害薬を併用する場合もあります。その後は、効果や副作用を観察しながら薬の種類や量を調整し、一人ひとりに合った治療法をみつけていきます。これらの薬による重い副作用が出ることは少ないですが、体調に通常とは異なる変化が現れた場合には医師に相談してください。
行動・心理症状(BPSD)の薬もあります
行動・心理症状に対しては、基本的に薬物を使わない治療を優先すべきだとされていますが、どうしても不安やせん妄、徘徊、うつ、興奮、暴力などの症状が強く現れた場合には、向精神薬や抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬、漢方薬などを使う場合があります。
監修 東京大学大学院医学系研究科
老年病学 教授
小川 純人 先生
この記事は2025年7月現在の情報となります。