認知症の治療

薬を使った治療(薬物療法)

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に対し、症状の進行を抑える薬が使用されます。

症状の進行を抑えるために使います

認知症には、脳の障害によって起きる中核症状(記憶障害や言語障害など)と、中核症状に環境や心理状態が合わさって起きる行動・心理症状(不安や徘徊、暴力など)があります。

かつて認知症には記憶障害などの中核症状を治療するための薬はありませんでした。しかし、1999年に最初の薬が認可され、現在では4つの薬が保険適用となっています(2021年10月時点)。主な対象はアルツハイマー型認知症で、1種類だけレビー小体型認知症にも適用となっています。
現在使われている薬は、認知症そのものを治す薬ではありません。あくまでも症状の進行を緩やかにして「本人が長くその人らしく暮らせるようにすること」をめざします。
4種類とも脳の神経伝達を整える薬ですが、作用の仕方で、大きく「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体阻害薬」というタイプに分かれます。

○アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症になると、脳内にある「アセチルコリン」という物質が少なくなります。アセチルコリンは脳の中で情報を伝える役割を果たしている物質(神経伝達物質)で、アセチルコリンが少なくなると脳内の情報伝達がうまくいかなくなり、認知機能に障害がでると考えられています。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解する「アセチルコリンエステラーゼ」という分解酵素に結合し、アセチルコリンが分解されないようにする薬です。

○NMDA受容体拮抗薬

アルツハイマー型認知症にかかわる神経伝達物質には、アセチルコリンのほかに「グルタミン酸」があります。グルタミン酸は主に記憶などに関連する神経伝達物質で、NMDA受容体はその受け皿となるものです。私たちがなにかを覚えようとするとき、脳内ではグルタミン酸がたくさん発生します。グルタミン酸にはNMDA受容体にあるふたを開ける役割があり、ふたの開いたところから神経細胞にカルシウムイオンが流れ込むことで記憶されるという仕組みになっています。しかし、アルツハイマー型認知症になると、必要のないときにもグルタミン酸が発生するようになり、NMDA受容体から大量のカルシウムイオンが流れ込んで神経細胞が壊れてしまうと考えられています。
NMDA受容体拮抗薬は、NMDA受容体に結合してふたをし、カルシウムイオンの流入をブロックします。その結果、脳内の情報伝達を整え記憶障害などの進行を防ぐのです。

一人ひとりに合わせて使い分けます

実際の治療では、認知症の進行状況や症状、本人の体の状態などを考慮しながら薬を使い分けます。場合によってはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体阻害薬を併用する場合もあります。その後は、効果や副作用を観察しながら薬の種類や量を調整し、一人ひとりに合った治療法をみつけていきます。これらの薬による重い副作用が出ることは少ないですが、体調に通常とは異なる変化が現れた場合には医師に相談してください。

行動・心理症状(BPSD)の薬もあります

行動・心理症状に対しては、基本的に薬物を使わない治療を優先すべきだとされていますが、どうしても不安やせん妄、徘徊、うつ、興奮、暴力などの症状が強く現れた場合には、向精神薬や抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬、漢方薬などを使う場合があります。

監修 東京大学大学院医学系研究科
   老年病学 准教授
   小川 純人 先生

×
第一三共エスファ株式会社の管理外にある
ウェブサイトに移動します。

知りたいがん用語

TOP