認知症の治療

薬を使わない治療(非薬物療法)

体や頭を使うことで脳を活性化します。日常生活すべてに応用が可能です。

非薬物療法ってなに?

認知症の治療においては、薬を使わない治療(非薬物療法)も非常に大切です。非薬物療法とは、脳トレや運動療法、音楽療法などのように、脳を活性化して、認知機能や生活能力を引き出す治療法をいいます。記憶障害や言語障害をはじめとした中核症状の進行を抑えるだけでなく、不安や妄想、うつ、暴力といった周辺・心理症状の改善も期待できるといわれています。
認知症の人に対して行われるもののほかに、介護を担う家族に対して行われる「心理教育」や「介護者のセルフケア」なども非薬物療法に含まれます。

非薬物療法にはどんなものがあるの?

認知症の非薬物療法にはさまざまな種類があり、認知症の進行具合や症状に合わせて効果的な方法を選択します。ストレスなく楽しんで続けられるような方法を選ぶとよいでしょう。

○認知刺激

言語だけではなく、絵などをみたり、音楽を聴いたり、花の匂いをかいだり、動物と触れ合ったりするなど、五感を刺激することで認知機能の改善をめざします。「指回し体操」などで脳に刺激を与える方法もあります。
グループ活動やレクリエーションを通して、興奮の軽減、感情障害の改善なども期待できます。

○リアリティオリエンテーション

リアリティオリエンテーションは「現実見当識訓練法」ともよばれており、「今日は何月何日か?」「ここはどこか?」といった自分の置かれている状況を正しく理解する能力(見当識)を強化・訓練する方法です。オリエンテーションを通じて見当識が修正されるので、誤った現状認識による不安や混乱を抑える効果も期待できます。認知症の人が少人数のグループになって行う「クラスルームリアリティオリエンテーション」と、日常会話のなかで行われる「24時間リアリティオリエンテーション」があります。

○回想法

回想法というのは、若い頃の思い出や昔の出来事を語り合ったり、若い頃にみた映画やテレビ番組を鑑賞したりする治療法です。1対1で行う場合と少人数のグループで行う場合があります。認知症の人は、近い記憶を思い出すことは苦手ですが、昔の記憶はしっかりと残っていることが多いです。こうした記憶をもとに、人の体験を聞いて共感したり自分の思い出を話したりすることで、脳が刺激され活性化します。
回想法を行ううえでは「相手の話を否定しないこと」「無理に聞き出そうとせず相手のペースで話してもらうこと」「聞いた話は他言しないこと」などのルールの順守が大切です。

○運動療法

認知症の非薬物療法のなかで、最も推奨されているのが運動療法です。体を動かすことは、体力や筋力の維持・向上だけでなく、脳の働きを活性化し、認知症の発症や進行を予防する効果があるといわれています。
運動にはウォーキングや水泳などの「有酸素運動」、筋肉に若干の負荷をかけることで強化を図る「筋力強化訓練」、バランス力を養う「平衡感覚訓練」があり、体力や健康状態を考えながら、これらを組み合わせて行います。ただし、無理をして疲れがいつまでも残るようでは体への負担も大きく逆効果、やりすぎは禁物です。

○音楽療法

音楽には、脳を活性化させたりや心を安定させたり、自発性を促したりとさまざまな効果が期待できると考えられています。音楽療法には、音楽を聴く、歌を歌う、楽器を演奏する、リズム運動をするなどの方法があります。

脳を活性化する生活習慣が大切です

認知症の非薬物療法は、特別なことをする治療法ではありません。確かに、医療スタッフや介護スタッフがかかわりながら行うものもありますが、やっていること自体は、会話をする、頭を使って遊ぶ、体を動かす、音楽に触れるなど日常生活の延長にあるものばかりです。治療効果を高めるには、決められた時間にだけ行うのではなく、そうした「脳を活性化する習慣」を日々の生活に取り入れることが大切かもしれません。

監修 東京大学大学院医学系研究科
   老年病学 教授
   小川 純人 先生

この記事は2021年11月現在の情報となります。

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